小豆島八十八ヶ所巡礼のはじまり

2026年4月、歩き遍路熱を治めるため、小豆島八十八ヶ所霊場を歩くことにした。四国をもう一度歩くとなると日数も距離もなかなかの覚悟が必要だが、小豆島は一周150kmほどとのことなので、ちょうどいいと思ったからだ。懐かしい屋島の姿がよく見える高松港からフェリーで1時間、瀬戸内海の穏やかな島に着く。初日の今日は「小豆島霊場総本院」にて巡拝開始前の授戒の儀式をしてもらい、実際に歩くのは明日からだ。予報よりも早く天気が回復してくれて昼には雨が上がり、エンジェルロードを望む展望台からは素晴らしい夕焼けを見ることができた。素敵な巡礼になりそうな予感がする。
| 日付 | 2026.04.10(金) |
| 天候 | 雨のち晴れ(15℃〜19℃) |
| 行程 | 高松→土庄、小豆島霊場総本院( 15,149歩/ ー km ) |
| 09:20 難波駅 → 12:55 高松駅(高速バス¥4,410) 13:40 高松港 → 14:40 土庄港(小豆島フェリー ¥700) 15:30 小豆島霊場総本院にて授戒(4/1 15:00 tel予約) 17:00「民宿オアシス」チェックイン 18:30 日没(エンジェルロード) 19:00 夕食(しまおと) | |
| お宿 | 民宿オアシス【 個室朝食付き / ¥8,300 / 6室 /16:00 】 (2/26 19:45 楽天予約) |
| 費用 | 交通費 ¥5,110(高速バス ¥4,410、フェリー ¥700) 納経等 ¥3,410(授戒料 ¥3,000、納経料 ¥300、納め札¥110) 食 費 ¥4,978(昼食 ¥828、夕食 ¥4,150) 宿泊費 ¥8,300 合 計 ¥21,798 |
【小豆島八十八ヶ所とは?】
・香川県の小豆島にある、弘法大師空海ゆかりの霊場。空海は生国である讃岐と京の都を行き来する際にしばしば小豆島に立ち寄り、各所で修業や祈念を行なったとされる。全国各地にある「写し霊場(ミニ四国八十八か所)」とは異なり独自の霊場で構成されているのが特徴で、「元四国」とも呼ばれている。
・全周約150km。88ヶ所に奥の院等6ヶ所を加えた94ヶ所が公認霊場とされており、3種類の形態がある(寺院30、山岳霊場14、堂庵50)。山岳霊場と堂庵は基本的に無人のため、納経は所管の寺院でまとめて行う。
※持ち物等を含めた詳細はこちら → 小豆島八十八ヶ所を歩く【準備編】〜四国遍路との違いなど
【小豆島への行き方】
・本州からも四国からも橋が繋がっていないので、上陸手段は船のみである。色んなアクセス方法があるので、自分が行きやすいルートを選べばよい。寒霞渓のHPがまとまっていて見やすかった。
・港は5つ。上から順に交通や商店などの利便性が高い感じ。
①土庄港 ⇄ 高松港(約60分/高速艇35分)、新岡山港(約70分)、宇野港(豊島経由・約90分)
②池田港 ⇄ 高松港(約60分)
③坂手港 ⇄ 高松東港(約70分)、神戸港(約200分)
④福田港 ⇄ 姫路港(約100分)
⑤大部港 ⇄ 日生港(約70分)
・小豆島霊場総本院を起点とするなら、土庄港。1番霊場から回る!という場合は坂手港になる。
小豆島へ向けて、いざ出航
2026年4月10日、いそいそとザックに荷物を詰め込んで、再びお遍路に出発した。仕事を辞めて4年目の春、そろそろ何かしなければという気持ちと、もう少しだけ夏休みを延ばしたいという気持ちの狭間で揺れている。歩き旅がしたい…。だがさすがに四国をもう一巡するのは日数がかかりすぎるし、熊野古道は熊に出会うのが怖い。そこで浮かんできた候補が「小豆島八十八ヶ所霊場」だった。一周約150km、12日ほどの行程だ。
まずは自宅から高速バスの乗り場である難波駅に向かうわけだが、通勤通学の人々に混ざってひとりだけ謎のいでたちで移動するのが思った以上に(精神的に)大変だった。ザックは旅行でもありえるし、金剛杖も体に沿わせて抱きしめておけばまあなんとかなるのだが、菅笠の異物感だけはどうにもできない。去年は初めてのお遍路だったので金剛杖と菅笠は徳島に来てから入手し、帰りも夕方近くでみんな様々な格好をしていたのでそこまで目立たずに済んだが、黒紺一択に囲まれての菅笠はたいへん厳しい(※もちろん白衣はザックの中である)。
区切り打ちのお遍路さんたちは毎回この修行を経て四国へやってきていたのか…。その苦労に思いを馳せつつ、できるだけ隅の方へ引っ込んで、やたら長く感じる時間をやり過ごす。満員電車から解放され、高速バスターミナル・なんばOCATへの閑散とした通路に出た時には心底ほっとした。バスの行き先表示には関空行きや伊丹行きに混ざって徳島、高知と懐かしい地名が並んでいる。しかし目的の高松行きだけ「うどん県」とあってオイっと地味に突っ込んでしまった。ひとつ後の丸亀行きは「さぬきEX」だし、正式県名がどこにも出てこないという香川県。
9:20、難波→高松行きのバスは定刻通り出発した。3列独立シートで優雅な間取り、なにより旅人ばかりで金剛杖と菅笠もそこまで悪目立ちしないのがありがたい。昨日まで準備でバタバタしていたのでバスが走り出していくらもしないうちに寝てしまい、気がつくととっくに淡路島は過ぎていて、鳴門の渦潮の上を渡るところだった。今日は朝から生憎の雨模様、雲は厚く、波も高そうだ。船は出てくれるかなあ、という一抹の不安を乗せながら、高松自動車道は”始まりの地”1番札所・霊山寺をかすめ、讃岐平野に向けて北上していく。
12:55、難波から3時間半ほどでJR高松駅に到着した。ここまで来れば菅笠も風景の一部だ。よく考えるとそれも不思議なのだが、四国ではスーツ姿や学生服に白装束が混ざっているのが日常なのだ。駅前広場に出ると向かいのビルに「高松港方面」とでかでかと書いてくれてあったので、そちらに向かって歩いていく。去年四国を歩いた時は駅から徒歩3分の東横INNに泊まったのだが、方向違いになる広場の方には行かなかったので、こんなに近代的だとは知らなかった。
ターミナルへの誘導橋を歩いていると、ビルとビルの間から見たことのある山の姿が視界に飛び込んできた。思わず「屋島だあ!」と叫び、一気にテンションが上がる。特徴的な平らな山影。展望所などで「ここから見える山々」と紹介されていてもさっぱり判別ができない山オンチだが、屋島だけはすぐ分かる。港からこういう風に見えるのかあ。屋島寺から八栗寺へと歩いた日のことを懐かしく思い出しながら、案内に従ってフェリー乗り場の方へ向かう。
小豆島は本州からも四国からも橋が繋がっていないので、船でしか行くことができない。自分が起点にしようと考えている「土庄」という港には岡山と高松からのルートがあったが、港周辺の利便性を考えて高松ルートで行くことにした。駅へ行くだけなら新幹線が使える岡山の方が断然早いのだが、そこから港までが遠く(バスで40分)、全体のアクセスもなんとなく悪かったのだ。高松港なら駅から徒歩10分だし、なにより四国を経由してお遍路にいくというのが良いではないか。
高松から土庄へは高速艇(所要35分)とフェリー(所要1時間)が1日それぞれ15便出ており、ちょっとした田舎のバスより利便性が高い。両便が同時に出航する時もあり、自分が乗ろうと思っていた13:40はまさにそれだったが、急ぐ旅でもないのでフェリーで行くことにした。料金も半額だし、ちょうどこの3月からクレジット決済も可能になったので便利だ。チケットを買って待合室の外で待っていると、”Olive Line” と書かれた船がしずしずと近づいてきた。高松ー土庄間は3種類のラッピングフェリーがあるらしく、今回お世話になるのはポケモンコラボのヤドン号だ。
一応タラップあります、みたいなかわいい階段をのぼって船内へ。船の中はヤドンだらけだった。入口の自動ドアのところから既に3匹もいる。ポケモンのなかでもなぜ「ヤドン」なのかというと、「うどん」とかけてこの子を「うどん県PR団」に任命したものらしい。香川県のアイデンティティはブレない。増殖しすぎたヤドンたちの写真をポケモン好きの友人に送る。
甲板に出ると、屋島がさらによく見えた。足元は全面的に濡れており、風も強めなのでずっこけないようにしなければ。恐ろしい事態(海ポチャ)になることを防ぐため、スマホもストラップでカバンに繋ぐ。天気予報では夕方遅くまで雨と出ていたが、お大師さまのご加護か、雨はもうすっかり上がって空が明るくなり始めていた。風があるため全国的に波も高めだったのだが、瀬戸内海の船が欠航になるほどではないようで、小豆島行きは全便通常運行予定。とりあえず島には行くことができそうでよかった。島旅の時は行きの船が出るかどうかがとにかく心配材料なのである(行けさえすれば、帰りはなんとでもなる!)。
13:40、出航。ロープが外され、海の底から泡が湧き上がってきて、船がそろりと岸から離れる瞬間を見るのが好きだ。乗船時間は1時間ほどしかないのと、内海のため次々と島や船が現れて(目的地である小豆島ですら出航前から既にうっすら見えているのである)、「あれが直島か〜」とか「なんかかわいいフェリーきた!」とかやっていると、船内でゆっくりしている暇がない。親子連れで来ていた年少くらいの子供たちより落ち着きがなく、結局最後まで甲板でウロウロしながら過ごしていた。
出航から30分弱、小豆島までちょうど半分に来たあたりでようやくフィーバーが収まり、いったん座ってお昼を食べておくことにした。遠ざかる四国を見ながら、難波で買っておいたサンドイッチを食べる。しばらくすると、フェリーは屋島と五剣山のちょうど真ん中に差し掛かった。右側の屋島には84番屋島寺、左の五剣山には85番八栗寺がある。陸側から見るのと逆に並ぶふたつの山、この光景にこんなにも心が揺さぶられるのは四国を歩いて廻った者だけだろう。
結願を目前に控え、左手に屋島、右手に五剣山を見ながらひたすら歩いた1日があった。菩提樹の花の咲きこぼれるあれは去年の6月のこと、まるで昨日のようにも思えるし、夢の中のようにはるか遠くにも感じる不思議な感覚だ。この謎の感慨が「エモい」というやつなのか…。次第に重なってしまい、遠くなっていく屋島と八栗。それを見送って進行方向に目をやると、小豆島の姿がもうはっきりと見えていた。感傷に浸るのも悪くないが、そろそろ気持ちを切り替えよう。これから新しい巡礼の毎日が始まるのだ。

小豆島霊場総本院にて、授戒
14:40 、小豆島は土庄港に無事到着。下りる時は車両と同じ出口から出るという野趣あふれる下船だった。前の人について行ったら貨物室に出てしまい、みっちみちに駐車されたトラックの間をザック姿で抜けるのもひと苦労。ここって入ってきてよかったのか?さっきの人たちは車に乗ってきた人で、徒歩は別の出口なのでは?と不安になり近くにいたお兄さんに聞いたら、これで合っているらしい。島の人だそうで、ひと安心。お兄さんの後ろに続いてスロープを下りた。
今日は土庄にある「小豆島霊場総本院」で巡拝前の授戒の儀式をしてもらう予定で、本格的に歩き出すのは明日からだ。余裕をもって予約を15:30にしていたので、まだ時間がある。帰りの予習にと待合所や観光センターを見て回り、奥の広場にあったオリーブの輪っかの形をしたオブジェにも行ってみた。広場からは港が一望でき、ヤドンちゃんがひと休みしている様子もよく見える。このモニュメントは「太陽の贈り物」と名付けられているそうで、葉っぱの一枚一枚に透かしで祈りの言葉が彫り込まれていた。この平和で美しい海が永遠でありますように。
港のほうに戻ってくると、さっきのお兄さんがまだ待合所の近くにいて何やら電話をしている。お迎えが来ているはずだったが、母ちゃんが港を間違えた!とのことだった。小さい島に港が5つもあるから、そういうこともあるんだろうなあ。お兄さんのお住まいは12番霊場の「岡ノ坊」の近くだとのこと、5日後くらいに行けるはずだ。そこでまた出会えたら面白いな。
小豆島に上陸したら、お参りの前にやっておかなければならないことがあった。「納め札」の調達である。小豆島霊場会のHPには「総本院のほか、土庄港すぐの”長栄堂”か”旭屋旅館”で用意できる」と書かれているのだが、旭屋旅館の方は半年ほど前の2025年11月30日に閉業してしまったので、まずは長栄堂に行ってみて、ないと言われたら総本院で求めよう。
観光センターの前から「長栄堂」の看板が見えていたので(「港すぐ」の記載に偽りなし)そちらの方へ歩いていって、その向かいにあった旭屋旅館の建物がすでに跡形もなく解体されていたことに驚いた。旭屋旅館は1953年(昭和28年)創業、72年の長きに亘ってお遍路たちを支えてくれた老舗の遍路宿だ。小豆島遍路について検索すると必ず出てきたので1泊目はここにお願いしようと思っていたのだが、調べていくうちに閉業が分かったのだった。小豆島のお遍路さんは激減しているそうで、いわゆる「遍路宿」は長栄堂の上階にある「大師の宿」を含めて2軒しか残っていないのだという。切ない。
長栄堂の店内は名物の「大師まんじゅう」を中心に和菓子やお土産物が所狭しと並んでいて、想像していたような(四国1番の霊山寺みたいな)お遍路用品店という感じではなかった。カウンターの奥ではおばちゃんたちがせっせとおまんじゅうを箱詰めしている。ここで合っているのだろうか、とちょっと不安になりながら意を決して尋ねてみると、はぁい、と慣れた様子で奥から納め札を出してきてくれた。よかった、聞いてみるものだ。100枚で110円。
小豆島遍路の準備をするにあたって、地味に悩んだのがこの納め札であった。納経帳は専用のものがあると明記されており通販でも見つかるのだが、納め札についてはどこにも情報(画像)がないのだ。小豆島八十八ヶ所について紹介しているサイトを見漁っても「四国遍路と同じで、初めてなら白色を使う」と書かれているだけで、色が同じなのは分かったけど、納め札そのものはどーなの⁉︎とやきもきしたのだった。実際に入手してみると、ちゃんと小豆島専用だ。そりゃそうだよね。納め札についての結論は、
「小豆島霊場専用の納め札がある。通販はされていないので、島に来てから入手する」。
界隈では当たり前すぎて誰も触れていないのかもしれないが、ビギナーはこんなところで引っかかってしまうものなのである。「八十八ヶ所霊場巡拝」には違いないので四国遍路のものを使用しても良いのだろうとは思うが(実際納め札入れに入っていた札の半分くらいは四国のものだったし、100枚使い切ってしまったあとは自分も四国の残りを使った)、せっかくなら島用を使いたいではないか。なお巡拝回数を重ねた時の色の変遷は小豆島と四国で若干異なるようなので、お先達を目指す人などは要チェックだ。
無事に納め札をゲットできたので、今日の目的地である「小豆島霊場総本院」を目指す。長栄堂の前の道をそのまま進めばよいようだ。ほっとしてそのままお店を出てきてしまったが、「大師まんじゅう」を2個くらい買っておけばよかったなあ。しばらくすると左手に特徴的な姿をした山が見えてきた。気になって調べてみたところ、「皇踏山」というそうで、紅葉の名所・寒霞渓のある星ヶ城山とともに小豆島の二大登山スポットらしい。
次に現れたのはローソン。駐車場のアスファルトもつやつやしていて、いかにも新築オープンな雰囲気だ。下調べしている段階では小豆島にはセブンイレブンが6つだけ、みたいな記載だったのだが、Googleマップにも載らないくらい最近にローソンが進出してきたようだ。小豆島を歩くにあたり食料調達が一番の悩みどころなので、これは助かる。しかも絶対に通るメイン通り沿いにあって使い勝手がいい。
15:05、長栄堂から10分ほどで「小豆島霊場総本院」に到着。コンクリート製の二階建ての建物で、道沿いにあるので見落とす心配はない。正面は大きなガラスの2枚扉になっており、ここ開けて入っていいのかなー、などと伺っていると駐車場に1台の車がやってきた。Tシャツにスラックスの軽やかないでたちのお坊さんが下りてきて、「予約の方ですか?」と声をかけてくれる。今日の授戒を担当してくれる方のようだ。時間より早いが準備ができ次第儀式をしてくださるとのことで、隣の納経所でさっそく授戒の受付をしてもらった。授戒料3,000円なり。
この「授戒」も納め札に次いで悩んだポイントで、霊場会を始めどのサイトを見ても「総本院の二階には授戒道場があり、巡拝者はここで授戒を受けてから巡拝に出るのがならわしとされている(ただし必須というわけではない)」というようなことがあまりにもさらりと書かれているだけだ。「どうやって」が具体的に説明された記述がいっこもないのである。辛うじて「予約が必要と聞いていたので電話した」と書いていてくれていた体験記がひとつだけ見つかったので、電話苦手を奮い立たせて問い合わせをし、予約の運びとなったのであった。
小豆島霊場巡拝前の授戒については、
「事前予約必須(総本院にて電話受付)。僧侶の方が常駐しているわけではない(予約に応じていずれかの霊場の住職さんが来てくれる)ので、ふらりと訪れて受けさせてもらうことはできない」が結論。
納経所にザックを置かせてもらい、白衣&山谷袋のお参りスタイルになって道場へ。外階段を上っていくと、袈裟に着替えたさっきのお坊さんがちょうど向こうからドアを開けてくださった。中は学校の講堂のような造りで、奥の方の舞台のようになったところに祭壇があり、その前に椅子がずらりと並んでいる。どうぞ前へ、と言われてどきまぎしながら一番前の真ん中の席へ。まずは塗香で手と頭などを清めると、灯りが消され、儀式が始まった(真言宗では蝋燭の光だけの闇の中で修法を行うのだそうだ)。
授戒の儀式は30分ほど。最後に一緒に十善戒を唱え、道中の安全祈願をしてもらい、弘法大師の御影と秘密血脈の護符をいただいた。四国では納経に際して全ての札所で御影の授与があるが、無人のお堂などが大多数を占める小豆島ではそれがない。授戒の時にいただけるこの弘法大師像が小豆島霊場で唯一の御影なのだ。大事にしよう。
今回私の授戒を担当してくださったのは、70番札所・長勝寺の住職さん。住職さんと聞くと年配の人を想像しがちだが、40代くらいのまだ若い住職さんだ。電気を点けたあとは、厳かな感じを緩めて歩き道の注意事項などを教えてくれた。山道は3月の半ばに若手のお坊さんたちがひととおり草刈りをしてくれたそうで、今が一番歩きやすいだろうとのことだった。逆にいうと、薮漕ぎをしなくてはならないような事態になったら道を間違っているということだ。
道迷いの流れから地図の話になった。そして、驚きの有益情報をゲット。なんと、自分が持っていた遍路地図「Shōdoshima 88 Temple Pilgrimage」の表紙にあるQRコードを読むと、遍路道が表示されたマップをスマホで見ることができるのだという。GPSを許可にすれば自分の居場所も表示できる。全然気がついてなかった!ていうか、誰もこのことについてネットで触れていなかったのはなんで??
四国やスペインでは巡礼アプリに大いに助けられてきた。あんまり頼りっきりになるのも良くないが、いざという時に現在地が把握できるというのはやはり相当な安心材料だ。小豆島ではいよいよ紙の地図だけで乗り切らねばならないのか…と恐れ慄いていたのだが、ちゃんとデジタルマップがあったのだ(※アプリではないのでインターネットが繋がらない場所では見られないことだけ注意)。授戒のおかげでさっそく道が開けた。電話をかけてみるかどうかで3日ほど悩んだが、勇気を出してお願いしてよかった。
授戒を経て晴れて弘法大師の弟子となり、一階の本堂にて最初のお参りをする。納め札を入手したばかりだったので、あっ、まずこれ書かないと、とか、新品のお線香が筒に詰まっていてなかなか取れない!とか、持ってきた100均ライターが全然つかない!とか、10ヶ月ぶりのお参りはやたらと手際が悪い。やっと読経まで漕ぎつけて、ちょっと表紙がハゲた愛用の「勤行次第」を久しぶりに手にする。
小豆島の寺院やお堂はすべて真言宗であり、本堂と大師堂が分かれていることは少ない。ここ総本院も祀られているのが弘法大師ご本人なので、勤行は1クールのみだ。すぐ隣に納経所があるのでちょっとドキドキしたが、受付のおじちゃんと住職さんが和気藹々と話をしてらしたので、こちらも自分のお参りに専念することができた(シーン…としていると本当に困ってしまうのである)。
本日のお宿に到着!〜夕暮れのエンジェルロード
総本院での授戒と納経を終えたら、今日のお遍路ミッションは完了だ。16:00、総本院を出発。明日の食料などを調達しつつ、ゆっくりお宿へ向かうことにする。教えてもらったマップをさっそく表示してみたりしながら、”世界で最も狭い海峡”土渕海峡を渡って「オリーブタウン」へ。オリーブタウンは広々とした駐車場のあるショッピングセンター街で、スーパーマルヨシ、薬のレディなど四国遍路でさんざんお世話になったお店が並んでおり、これまた懐かしい。桜並木はちらほらと散り始めていたが、皇踏山をバックに一面のピンクが迎えてくれた。
土渕海峡の最狭部は9.93mで、「世界で最も狭い海峡」としてギネス世界記録にも認定されているそうだ。何も言われなければ川にしか見えないが、地図を見てみると小豆島の本島と前島の間に位置しており、ここを流れているのは確かに海水なのである。アーチで飾られた散策路の末端には4ヶ国語でギネスの掲示がされており、ツアーの定番立ち寄りポイントにもなっているようで、団体さんがわらわらいて記念撮影をしていた。すぐ横の土庄町役場で申請すれば横断証明書も貰えるらしい(有料、100円)。
海峡沿いに南下していくと、右手に三重の塔がちらっと見えた。明後日お参りする予定の「誓願之塔(58番西光寺奥の院)」だ。小豆島遍路の長さは四国遍路の1/10、そこに94のお寺やお堂が密集しているので、何日か前に行ったお寺が実は結構近くにあって、ぐるっと回って戻ってきたら向こうの山に見えていた、ということもよくあるのである。
17:00、本日のお宿「民宿オアシス」さんに到着。和室のお部屋は真新しい畳の匂いが爽やかだ。お風呂はもう沸いているとのことだったので、さっそく入らせてもらう。洗濯機は脱衣所に1台、乾燥機はなし。お風呂に入っている間に洗濯を回すことができるので時短になり便利だ。ただし洗剤はなかったので、念の為少しだけ持ってきていた粉洗剤をさっそく使うことになった。部屋には物干し用のリールが備えられている。エアコンの力も借りれば翌朝までには乾くだろう。
さて、晩ごはんをどうしようか。お宿の1階はカフェ兼イタリア料理店でもあるらしいのだが、土庄は小豆島で外食できそうなお店が集まっている数少ないエリアなので、どこか居酒屋さん的なものを探してみたい。少し晴れてきたので、もしかしたら夕日も見られるかもしれないし。それなら海辺の方に行ってみよう、ということで、小豆島といえばまず出てくる観光名所「エンジェルロード」(徒歩20分くらい)にお店の探索がてら行ってみることにした。
外に出ると、天気予報からは想像もつかないオレンジ色の空が広がっていた。これは期待できそう。エンジェルロード方面に向かうと先ほどの「誓願之塔」にも近づく形になり、夕映えを背にしたその影が水面に揺れる様子に「ああ、明日からこの美しい島を巡るんだ…」と静かな喜びのようなものが込み上げてくる。素晴らしい情景にうっとりしながらも、視界の端に映ったドラッグストア「ZAKZAK」とセブンイレブンは目ざとくチェック。補給ポイント大事!
セブンの少し先にエンジェルロードへの案内看板があり、それに従って堤防沿いを歩いていくと、駐車場の先から砂浜に下りることができた。穏やかな波が打ち寄せる浜辺には空も海もピンク色に染まった世界が広がっていて、思わず歓声が漏れる。もうすぐ干潟が現れる時刻だったのでそれなりに多くの人が訪れており、思い思いに夕暮れのエンジェルロードを写真に収めていた。
エンジェルロード(「天使の散歩道」)は1日2回干潮の時に姿を現す砂州で、観光協会や小豆島フェリーのHPを見れば「今日の干潟時間」がすぐに分かるので、皆それを見てやってきたのだろう。今日の2回目の干潟時刻は「19:37〜01:37」、渡れるくらい完全に砂州が出る頃には真っ暗になってしまうだろうが、いい具合に夕焼けとできかけの砂州を見ることができて、今日の観光客はラッキーだったのではないだろうか。
砂州の手前には弁天島という小さな丘があり、そのてっぺんは展望台になっている。エンジェルロード、と検索した時に出てくる写真はこの「約束の丘展望台」からのアングルのものだ。こんもりと繁った木々になかなかの傾斜の階段が見えるが、歩き遍路ならばここは登っておかねばなるまい(?)。というわけでひーこらと上まで上がっていくと、「恋人の聖地」と銘板が打たれた「幸せの鐘」と、ハート形の絵馬がたくさんかかった絵馬掛けが立っている展望スペースに出た。
上からエンジェルロードを見下ろすと、刻々と砂州が盛り上がってきている様子がさらによく見えた。浜辺で見た時は空の色が際立っていたが、ここからだと海の浅くなった部分がエメラルド色に透けて、それが空のピンクと混ざり合ってパステルカラーの水彩画のようだ。対岸に目を向けると太陽がまさに島影に沈もうとしているところで、空も海も真っ赤に燃えていた。あまりの美しさに、ちょっと泣きそうになる。
向こう10日間、ずらりと並ぶ小雨マーク。ここ数日、何度も天気予報をチェックしては溜息をついていた。せっかくの島旅なのにずっと曇り空なのかなあ。お遍路が目的とはいえ、景色も楽しみだったのにな…。正直それについては諦めかけていて、せめて歩けないほどの雨でないことを祈るばかりだった。しかし実際に島に着いてみるとどうだろう、すっかり雨はあがり、空はどんどん明るくなって、思ってもみなかった素晴らしい夕景が出迎えてくれた。素敵なサプライズに「ようこそ」のメッセージを感じて嬉しくなる。歩き旅をしていて思うのは、「世界はいつでもとっても優しい」ということだ。それを受け取れるように、心を開くかどうかだけなのだ。
(※写真では無人っぽく見えるが、この時そう広くないこの展望スペースには自分と家族連れ4人とめちゃくちゃテンションの高い3人娘のグループがいて結構わちゃわちゃしていた。ひとり旅慣れしすぎたのか、そんな状況でもしんみり黄昏れることができるようになってきた。笑)
マジックアワーが終わるとあたりは一気に暗くなり、気がつくと誰もいなくなっていた。薄暗いなか展望台からの階段を下りていて、うっかり足を滑らせて尻もちをつきかける(とっさに手すりをつかんでセーフ)。階段の面がどれもなだらかに下向きに下がっていたからなのだが、小豆島の遍路道の段差はほとんどこんな感じだったので、みなさんご注意を!山道で滑り落ちる前にこの観光地用のしっかり目の階段で予行演習(?)できてよかったかもしれない。
エンジェルロードから戻って広い道に出たところに「季節料理 しまおと」という居酒屋さんがあり、☆4.9と超高評価だったのでここに行ってみることにした。中を覗くとすでにお客さんでいっぱいだったが、幸いひとり分の空きがありカウンターに収まる。歩きの前夜祭にと奮発して、お造りの盛り合わせにポテトサラダと牛のたたき、どれも美味しすぎて感動!30代半ばくらいだろうか、地元小豆島の出身だという気さくなマスターは料理を出しつつ場を盛り上げてくれ、あたりは終始笑いに包まれていた。
しばらくすると隣の並びの予約席にマスターの同窓生たちがやってきて、お店は満席となった。観光ですか、と聞かれたのでお遍路で来たと答えると、「なんでまた??」と一様に驚かれる。地元で日常的に目にしていると敢えて訪れようとはならないのは、どこも同じのようだ。マスターはコロナで商売あがったりの時に歩いたことがあるといい、結構きつかったです…とおっしゃっていたが、少数派のようだった。ムードメーカーのお姉さんは島の北の方はお店がないんよ、と心配してくれ、近くに住んでるから呼んでくれたら食べ物持っていくわ!と頼もしいお言葉をくださった。
20時過ぎ、お宿への帰途につく。お腹いっぱいに満たされてまったり歩く帰り道、少し冷たい夜風が頬に心地よい。空を見上げてみるとすっかり雲は晴れ、満天の星空が広がっていた。初日から順調にことが進みすぎて、もう素晴らしいお遍路になる予感しかしない。ありがとう小豆島。これから11日間よろしくね。
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